2020年度賃金・労働条件実態調査報告書の発刊にあたって

 国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し(2020年10月発表)」によると、新型コロナウイルスの影響により大幅に鈍化した世界経済は、4月以降の回復ペースが予想より早まったとして、前回6月から0.8%引き上げ、前年比4.4%減としました。一方、2021年は、前年比5.2%増に持ち直すとしているものの、6月からは0.2%の下方修正としました。
 日本の2020年の成長率は5.3%減と6月時点から0.5%上方修正されましたが、金融危機直後の2009年(5.4%減)なみのマイナス成長とされています。2021年は2.3%のプラス成長で、緩やかな回復軌道に戻るとみられています。
 トラック運輸産業は、日通総研「2020年度の国内貨物総輸送量の見通し」によると、国内貨物輸送はコロナ禍に加えて前年度における消費増税の影響もあり、リーマン・ショックを上回る7.2%減と予測。消費関連貨物は、消費増税の影響に加え、コロナ禍による経済活動の自粛が大きく下押しし、5.6%減と前年度よりマイナス幅が拡大すると予測しています。生産関連貨物、建設関連貨物ともに、低迷が続くものと予測されています。
 今回の調査は、142組合(119,666人)のご協力をいただきました。本冊子には、賃金・労働条件実態調査の結果を中心に、春闘解決内容調査、企業内最低賃金協定締結状況調査の結果も一部収録しました。
 本年の調査結果では、月額賃金(2020年6月)は加重平均(以下同様)で349,181円(前年比2.8%減)となり、10,093円の減額となりました。内訳は、所定内賃金は前年と比べて8,717円の減額、仕事給は5,304円の増額、所定外は6,680円の減額となっています。また、労働時間は197.9時間(前年199.9時間)で、前年から2時間(1.0%)の減少となるとともに、近年のピークである2006年(220.9時間)より約10.4%減少した水準となっています。
 また、2019年の年間賃金は5,122,316円で、前年を100,805円下回りました。年間総労働時間は2,386時間(前年2,443時間)となっており、前年より57時間減少しています。
 職種別の賃金実態をみると、本年も事務職と比較して運転職の賃金総額に占める所定内賃金の割合が低くなっており、男子事務職の所定内賃金比率71.5%(賃金総額360,710円)に対し、男子大型運転職は50.7%(同387,790円)となっています。
 また、平均年齢は今年も単純平均が45歳を超える結果となりました。厚生労働省の2019年賃金構造基本統計調査による産業全体の平均年齢は43.8歳であるのに対して、道路貨物運送業は47.5歳と、平均で3.7歳の差があります。過去の水準(2004年時点)と比較しても、産業全体が41.3歳だったのに対し、道路貨物運送業は41.7歳と0.4歳の差であり、平均年齢の格差が拡大しています。運転免許新規取得者の減少が続く中で、ドライバーの平均年齢の上昇スピードは産業全体より速まっており、労働集約型産業にとって必要不可欠な「人財」の確保のためにも、労働諸条件の改善と格差是正に向けて、より積極的に取り組まなければなりません。このような労働条件を改善させ、働くものの雇用の安定、生活向上を図るとともに、組合員の働きがいはもとより、魅力のある産業を実現するためにも、「年間所得の引き上げ」「賃金制度の確立・改善」「企業内最低賃金協定の締結」「65歳までの定年延長」「総労働時間の短縮と時間外割増率の引き上げ」などが求められています。
 労働組合にとって、春季生活闘争はそのための運動(手段)の重要なポイントとなります。来るべき2021春季生活闘争の取り組みにあたり本資料を参考にしていただければ幸いです。
 なお、昨年から調査対象職種と労働時間に関する新たな調査項目を追加しました。本書に掲載したこれらの集計結果は、2年目の調査結果でもあり、データはまだ蓄積されていませんが、これからの運動の貴重なデータとして活用していきたいと考えています。今後も継続して調査を実施しますので、回答へのご協力をお願いいたします。
 最後に、新型コロナウイルスへの対応により、業務に大きな影響が出ている中、本資料の作成にご協力いただきました各組合ならびに地連・都府県連のみなさまにお礼申し上げ、報告とします。

運輸労連 中央本部 労働政策部