2009年度賃金・労働条件実態調査報告書の発刊にあたり

 昨秋のリーマン・ショックに端を発した金融危機は、実体経済にも多大な影響を与えて、またたく間に世界経済を大混乱に陥れました。
 日本においても、輸出の急激な落ち込みなどにより企業の経営環境は急速に悪化して、かねてから懸念されていた製造業派遣の2009年問題の解消と絡めて、派遣労働者を中心に一斉解雇や雇い止めなど最悪の形で雇用調整が行われたことにより、大量の失業者が街に溢れて社会問題となりました。
 連合が2008年11月13日に政府に緊急雇用対策の申し入れを行い、職を失った労働者の住宅・生活支援をはじめ、雇用調整助成金の拡充などを要請したこともあり、失業者対策や雇調金の支給条件の大幅な緩和とともに、中小企業緊急雇用安定助成金が創設されました。また、年末には、急遽NPO法人などにより、住まいを失った元派遣労働者等のために年越し派遣村が開設され、年明けには厚生労働省の講堂も開放されました。
 トラック運輸産業においても、国内物流の減少に加えて、これまで頼みとしていた国際物流も激減したことから、各社とも大幅な減収を余儀なくされました。さらには、主に中堅・中小規模の組合から、物量減の影響で仕事が減少し、労働時間は短くなったものの賃金水準も大幅に低下したことや、雇調金を活用して何とか耐えている、との声も寄せられています。
 今回の調査には181単組のご協力をいただきました。そのうち賃金項目に関する有効集約数は147組合(前年は136組合)、対象組合員数は91,763人(同96,463人)でした。
 経済環境の変化による影響は、調査結果にも表れました。全体の傾向値(加重平均)を前年と比較すると、6月の労働時間は5.5時間短縮するとともに賃金も9,522円の減額となりました。労働時間は2000年以来の水準で、賃金総額は1990年(343,528円)以来の水準となっています。また、年間支給総額は103,356円の減額となり、総労働時間は各組合の単純平均ですが107時間の減少となりました。
 トラック上場各社の中間決算(2009年4月〜9月)では、9割以上が減収となっていますが、昨年同時期と比較して下落した燃油価格やコスト削減によって、半数の企業が増益を確保しました。しかし、国内企業物価(日銀・10月確報)は前月比でマイナス0.8%となり、消費者物価(総務省)も下落傾向となっていることから政府はデフレに言及しており、円高の影響も含めて、経済の先行きは年度末に向けて予断を許さない状況が続いています。
 2009年は総体的に労働時間短縮とはなりましたが、仕事給や所定外の比率の高い賃金体系のままでは、物量が戻る過程において、再び長時間労働が常態化することが懸念されます。労働力人口や運転免許取得者の減少がすすむ中で、ドライバーの定着や担い手の確保のためにも、基本給をはじめとした固定給の比率を高め、繁閑に左右されずに安定した生活を送ることが出来る賃金制度の確立が急務です。
 このような労働条件を改善させ、働くものの雇用の安定、生活向上を図るのが労働組合の役割であり、春季生活闘争はそのための運動(手段)の一つでもあります。来るべき2010春季生活闘争の取り組みにあたり本資料を参考にしていただければ幸いです。
 終わりにあたりまして、多忙の中、本資料の作成にご協力いただきました、単組および地連・都府県連の皆さんにお礼申し上げ、報告とします。

全日本運輸産業労働組合連合会 労働政策部 三瓶宏一 浅井邦茂