平成15年労働基準法が改正され「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通 念上、相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして無効とする」ことが明示されました。この改正は、正当な理由があれば解雇できるとの反対解釈が可能であり、要警戒です。しかし、いずれにしても、会社の経営が苦しいからといって、労働者を簡単に解雇しょうとすることは許されません。解雇とは、労使間の合意で結ばれた契約を、一方の当事者である会社の都合だけで解約することだから、正当な理由のない解雇は許されないのです。
 まして、不況・業績不振・経営悪化は、労働者の責任ではない。会社の経営上の理由で労働者を解雇するには、「整理解雇の4要件」が満たされなければなりません。
Q&A「営業譲渡」
Q&A「関連会社への業務移管」
Q&A「合併」
Q&A「自主閉鎖」

 また、30日前に解雇を予告し、手当を支払えばいいというものではなく、正当で合理的理由がなければなりません。「仕事がない」などと言うのは当然、合理的理由とは言えず、解雇が合理的とみなされるのは、労働者が、労働契約に違反したり、企業の利益を損なったり、信用を著しく傷つけたりなどにかぎられています。
 以下のことを理由とする解雇は法律で禁止されています。
  ・国籍、信条、社会的身分     ・労働組合活動
  ・性別、結婚、妊娠、出産、産休  ・業務上の負傷・疾病による療養期間とその後の30日間
  ・労働基準監督署への申告     ・産前・産後休暇期間とその後の30日間

退職を撤回できるケース

1.脅迫により提出した退職届 退職の意思表示が脅迫によるものと認められた場合
2.錯誤により提出した退職届 勘違いや意思のすれ違いから提出した場合


○希望退職
 希望退職募集は、企業が経営危機を回避するために、経費節減、役員報酬カットなどの処置を講じてもなお、建て直しができない場合に行うのが一般 的です。希望退職募集の際には、特定の対象(年齢、特定の人)を規定したものであってはならず、あくまでも本人の自由意志に基づくものでなくてはなりません。また、希望退職は、会社都合退職であって、自己都合退職ではなく、雇用保険の適用も会社都合退職扱いとなります。

○整理解雇の要件
第1要件=人員削減の必要性
 人員削減措置が企業経営上の十分な必要性に基づいていること、ないしはやむを得ない措置と認められることです。
 この必要性の程度について、判例は、(1)人員削減をしなければ企業が倒産必至の状況にあることまで要するものと、(2)客観的に高度な経営危機から人員削減措置が要請されることが必要とするものと、(3)そこまでは要せず、企業の合理的運営上の必要性があれば足りるとするものとに分かれている。
 人員削減の必要性の有無を、どのような事実に基づいて判断するかであるが、過去数年間の会社の経営状況、人件費の動向、新規採用、臨時工などの人員動向、業務量 、株式配当、資産状況などが基礎事実になるでしょう。

第2要件=解雇回避努力義務が尽くされている
(1)労働時間短縮、配転・出向、一時帰休、新規採用の停止、希望退職などの雇用調整手段をとりうるのに、それらを活用せずに整理解雇の手段に出た場合は、解雇回避努力義務を尽くしていないとみなされる。
(2)特に、希望退職募集をせずにいきなり指名解雇した場合は、基本的に解雇回避努力義務を尽くしていないと判断される。
 また、希望退職募集をした後、その応募者に対して使用者が保留している場合は、解雇回避努力義務を尽くしていないことになる。

第3要件=解雇者の選定基準および選定が合理的であること
(1)整理解雇は、人員削減が必要だとしても、被解雇者の選定は、客観的に合理的な選定基準を公平に適用することにより行われる必要がある。
(2)選定基準には、勤務成績や能力などの労働力評価を基準とするもの、勤続年数などの企業貢献度を基準とするもの、労働者の再就職可能性や家計への打撃などの労働者の生活評価を基準とするもの、労働者の雇用形態を基準とするものなどが各種ある。それが合理的な基準か否かは、事案の具体的事情に応じて、個別 に判断することになる。
 なお、雇用形態に着目して非正規労働者を優先的に解雇する基準の合理性について、近年雇用形態の多様化に伴い、正規か非正規かの区別 なく、フルタイム基幹的業務に従事している場合が少なくないため、単純に呼称だけを基準にして非正規労働者を整理解雇の第一順位 にあげることは合理的とはいえない。業務の内容、採用時のやりとり、労働契約更新の回数、契約更新手続きが形骸化していないかなど全体的に見て、実質的に期間の定めのない労働契約(正規従業員・正社員の契約)と異同をチェックして、実質的に判断すべきです。

第4要件=組合や労働者と誠実に協議したこと
(1)使用者は、労働組合または労働者に対して、整理解雇の必要性とその内容(時期・規模・方法)について納得を得るために説明を行い、誠意をもって協議すべき信義則上の義務を負う。
(2) 労働協約上、整理解雇について、使用者に労働組合との協議またはその同意を義務付ける条項(協議約款・同意約款)がある場合は、協議(または同意)を経ない整理解雇は、協約違反として無効となる。このような協約がない場合でも、(1)の信義則上の義務があり、守られねばならない。
Q&A「整理解雇」

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